#33「友の死」(2)

それでは第二弾。脚本と演出に隠された、様々な暗喩や伏線について、勝手な深読みしてみます。既に色々な方が指摘している事と重複してしまうと思いますが、ご了承を。

水仙と菜の花・団子の食べ方>
逃亡中、水仙の花を見て菜の花だと言う明里。山南さんは「この季節には菜の花は咲かない。」と教えます。ところが切腹間際、明里は「ほら、咲いてる事もあるんだよ!」と摘んできた菜の花を差し出すのです。「団子は三つ目を食べようとすると、喉に串が刺さってしまう。そういう時は、ひっくり返して食べれば良い。」という話にもひどく感心していた山南さん。確かに彼は学問に秀でているけれど、逆に知識や常識に捕らわれすぎて、柔軟な考えができない人だった、というのを良く表しているエピソード。かつて周斎先生が土方を慰める時に、「山南さんの知恵は、書物で得たものだ。お前には経験からの知恵がある。」と言ってましたよね。

<開ける障子、閉じる障子>
近藤さん、佐之助&永倉さん、源さん、そして明里。皆「逃げてください」と障子を開けるのですが(明里はちょっと違うけど)、山南さんはそのたびピシャリと閉めてしまいます。この繰り返しの演出が、とても効果的でした。そして最後に部屋を訪れ、ほとんど何も声を掛けられず、顔も直視できないままに、本人以外で初めて障子を閉めたのが、土方でした。

<助命嘆願>
「私は山南先生に、採用していただいたのです!」と近藤さん達に土下座した、松原、河合、尾関。そう、「山南さん名場面ベストテン」に確実に入るであろう、20話の「鴨を酔わすな」における、「採用です!!」のシーンですよね。

<死の予言>
史実として知られているこの先の展開の、伏線めいた事を敢えてチラチラ出すという脚本のお遊び。かつて新見錦切腹する際に、山南さんに「先に行って待ってるぜ。」と言いました。そして今回山南さんは、河合に「金銭の管理はしっかりしなさい。」と言い残します。彼の行く末を知っている私たちは、より一層「うわー」と来るわけですよね。

<山南さんと総司>
このドラマではさほど仲良しという風には描かれてなかったものの、やはり最初の頃から、色んな因縁があるんですよね。まず山南さんが初めて試衛館を訪れた日(4話「天地ひっくり帰る!」)、総司と試合をして負かしてしまい、自信満々だった総司は、ひどく落ち込みます。その後近藤の襲名披露試合で山南さんに勝った時(7話「祝四代目襲名」)の、総司の嬉しそうな顔と、山南さんの「お強くなりましたね」というような笑顔も印象的でした。10話「いよいよ浪士組」では、「総司はまだ子供だから江戸に残れ!」と言う近藤さんに、山南さんは「連れてってあげましょう。沖田君の剣が役に立つ事があるかもしれない。」と説得します。そして結局、山南さんはその総司の介錯で、死を遂げる…。総司の「私の好きな人は、みんな私の刀で死んでいく。」という言葉、本当に悲しかったです。

<山南さんと土方>
思えば初対面の時から、土方はこの人が気にくわなかったんです。でも芹沢鴨という共通の敵(?)が現れてからは、かなりいい感じでコンビを組んでいたのに。13話「芹沢鴨、爆発」では、浪士組の一人に因縁つけられる山南さんを、絶妙なタイミングで救ったりもしたし、16話「一筆啓上、つね様」では、二人で汁粉を食べに行ったりもしていたのに。やっぱりターニングポイントは鴨暗殺の日かな。あの時躊躇して平山が斬れなかった山南さんは、自分の限界に気づいてしまったんでしょうね。白牡丹のつぶやきさんの、「池田屋の時、土方が山南さんを屯所に置いておいたのは、彼が人を斬れないと知っていたから」というご意見、今回のワンコの回想(岩木升屋で斬られそうになってすくむ山南さんを、土方が助ける)を見ると、なるほどと膝を打ちました。

<近藤局長>
新見、芹沢、葛山粛正の場には、居合わせていなかった近藤さん。今回初めて現場に立ち会ったわけです。今までは土方の事を「やりすぎだ!」と怒ってばかりだったけど、いざ自分がその立場になってみて、初めて彼のつらい気持ちがわかったのでは。最後の号泣シーン、凄い顔の土方に比べて近藤さんの泣き方がおとなしいのは、慎吾ちゃんの演技力云々ではなく、「さあトシ、今は思う存分泣いていいぞ!」と胸を貸してる立場だからなんじゃないかと。いつも土方に頼りっぱなしみたいな印象が強かったんですが、これでまた近藤さんも、一つ成長するんじゃないかな。とりあえず慎吾ちゃんの体型は、急激に貫禄ついて来てますし…。

<空気読めない甲子太郎>
最後のシーンでかなり顰蹙を勝ってるカッシーですが、私はむしろ今回、「うわ、この人かわいいじゃん。」と思ってしまったんですよね。切腹の場面では本当につらそうな表情だったし(一人目を逸らしてしまうこの人と、つらくともしっかりと見守る試衛館メンバーという対比もありますが)、一首詠んだのだって、別に嫌がらせとかおべっか使いとかではなかったと思う。この人間味ある描き方を見て、私はこの人も今後憎めないキャラに変わって行きそうな予感がしました。

<藤原総司>
あまり本筋には関係ないけど、語らせて。ここんとこの藤原君、ほんといい。正直最初総司役が彼と聞いた時は、「三谷さんにはカラーが合わないんじゃないか」と思ったんですよ。で、最初の頃は(かわいかったけど)あまり目立たなかった気がするんだけど、鴨暗殺ぐらいから、ぐんぐん惹き付けられてます。やっぱりこの子は、繊細でシリアスなお芝居をやらせたら上手い。総司に影の部分が増えれば増えるほど、魅力的になってます。三谷ドラマと言っても、「HR」や「王様のレストラン」ではなく、大河の「新選組!」だからこそでしょうね。山南さんがいなくなって寂しいけど、彼の今後を見るのも楽しみです。