#9「別れても友達」

毎回毎回「すいか」を引き合いに出して申し訳ない。でもどうしても思い出してしまうんだもの。焼き栗は教授とたま子さんの甘栗を、泣いてる信子の口にまり子がポンと放り込んでやるとこは、基子がお母さんの口に飴玉を入れるとこを、女に騙されるおいちゃんは、二重の手術をした間々田さんを(あ、両方克実さんだ)、そして飛び降りる蒼井は、教授に当てつけて本当に飛び降りてしまった女生徒を思い出した。「すいか」ではその女生徒は、骨折はしたものの命は無事で。結局助かったってのも一緒ですね。教授の「生きていてくれてありがとう。私たちはまだまだラッキーよ。」 という言葉に、涙した覚えが。野ブタが面白い!と思っている方は、是非「すいか」も見て欲しいです。というか、「すいか」を見ているからこそ、「ああ、そういう事か」とわかるシーンも多いんですよね。一から十まで説明してくれるタイプのドラマじゃないから、今回の話なんかも、「何このファンタジックな展開?」とか、「結局蒼井の動機は何だったの?」とか、腑に落ちない人もいたかもしれない。でも「これは木皿作品だ」という予備知識があれば、すごく理解しやすいんですよ。

しかしいきなり修二の家でハンバーグ作ってる蒼井は怖かったー。お父さんがブタをあげちゃったとこも、「ああ!!ダメだってばー!!」ってドキドキした。でも私が心配してたより、三人へのダメージは少なかったかも。修二もすぐ彰に相談してたし、信子への真相告白も、それほど大打撃って感じはしなかった。あの鯛焼きの頃だったらもっと見ててつらかったと思うけど、先週キャサリンに「信じたい方を選びなさい」と言われて、信子は蒼井より修二を選んだもんね。蒼井がプロデュースの仲間に加わった時も、あまり嬉しそうじゃなかったし。薄々「ちょっと変だな」っていうのは気づいてたんじゃないかな。信子へのビデオメッセージ自体は、正直「うーーん…」という感じでした、私は。ただその後の、夢の話がもう、たまらなかった。「私を許してくれる?じゃなければ飛び降りる。」という蒼井が、「あ、こいつ本当に行くな。」ってわかるんですよ。だから、頑なに「許せない。」って言う信子に、「ああ、ダメ、そんな事言ったら、あなた達がこの先ずっと苦しむ事になるよ!お願い!!」って、もう胃がキリキリしちゃって(この時のヘリコプターのSEが、不安を募らせる効果倍増)。そしてあっさり蒼井が飛び降りて、「うわああああああ!!!」と頭をかきむしりそうになってたら、なんと夢だったよ!確かに彰の家に、「屋上に来て」っていう書き置きがいきなりあるってのは、不自然だったわ…。

でね、この「実は助かりました」っていうのが、「四人同時に見た夢」っていう設定なのが、もの凄く秀逸だなあと。「すいか」の時の、「本当に飛び降りたけど命は無事でした」よりレベルアップしてる。四人とも、あのブタを握りしめて寝ていたわけで、その不思議な力のせい、っていう理由付けがまずできていて、そして同じ夢を見る事で、信子達は「何を考えてるのかわからない」「不気味で怖い」蒼井の、弱い心に気づいたんだと思う。蒼井も修二と同じ、自分の欲望を素直に表せない、「寂しい人間」だったんだよ。これは推測だけど、蒼井は元々、修二に自分と同種の匂いを感じていたんじゃないのかな。それが信子によって彼がどんどん変わって行き、三人の友情が深まっていく事に、嫉妬していたんじゃないかと。蒼井は誰よりも、「友達が欲しい」って強く思ってたんだよね、心の底では。で、それが図らずも、あの「友情のブタ」を持つ事で、一瞬だったけれど実現した。夢から覚めて、芝生の人型を見た瞬間、私も信子と同じように、心から「良かった。生きてて本当に良かった。」と思って泣いた。その信子達の気持ちも、蒼井に伝わったと思う。

「先生は、取り返しのつかない場所に行った事、ありますか?」
「うん、あるわね。」
「一人で戻ってきたんですか?」
「ううん、友達だね。」
「そうですか。」
「友達が連れ戻してくれた。」
あの人型は、「蒼井の悪意」は死んだ、という証でしょうか。とりあえずあのブタを壊した事で、「永遠の友達」はまた三人に戻ったわけだ。それは「自分はこれを持っていてはいけないな。」という蒼井なりの誠実さというか、落とし前の付け方かなとも思う。

結局さ、いくらうまく立ち回ってるつもりでも、相手には伝わっちゃうんだよ、本気じゃないって。信子だって、かわいく女の子らしく偽るより、地のままの自然な姿が人気なんだもん。プロデュースには限界があるんだ。あの夢の中の蒼井だけは、本気だった。修二が信子の為にクラスで頭を下げた時も、彼が本気で言ってる言葉だからこそ、ちゃんとみんなに届いたんだと思う。修二が「今、こうして俺が言ってる言葉が、みんなに届いてないと思うと、怖いです。死ぬほど怖いです。」と言ってる時、男子達が皆あらぬ方向に目を泳がせてる中で、タニだけがまっすぐ修二を見て、真っ先に「届いてるよ。」と言ってくれたのは嬉しかったなあ。修二は蒼井に、「我慢したり辛抱したりするから、人に優しくできない嫌な人間ができるんじゃないの?俺はやっぱり人には優しくされたいし、だからこれから先は、できるだけ人には優しくして行こうと思ってるし。」なんて言ったりして、確実に以前とは変わりました。そして最後のナレーションでは、はっきり「ここにいる限り、俺は道に迷うことはないだろう。」と言い切ってます。ところがそれでめでたしめでたし、と行かないのもまた人生で…。お父さんの転勤、どうなっちゃうんだろうね。原作では修二が孤立したまま転校して行くラストなんだっけ?でも予告(って言えるのかあれは)での、「さよなら、桐谷修二」っていうのは、「もう一度自分のプロデュースをやり直す」って事でしょう?木皿さんだったら、今のあのクラスで、っていう話にしてくれそうな気がするんですけどねえ。それとも、ナポリに旅立った教授のように、敢えて厳しい話にするんでしょうか。

…ってまた彰について全然語ってないじゃん!ごめんね彰、だってあなた、完璧すぎるんだもん。
「俺の中では、修二と野ブタは一番なの。俺自身は二番なの。嘘じゃないよ。毎日楽しいのが一番でしょ。だから俺はそっちを取ったの。つーかさ、根本的にやり方間違ってない?人は試すもんじゃないよ。育てるもんだよ。愛を持って。
か、かっこいい…。これをバリバリ二枚目風じゃなく、あのふざけた口調で言うとこがまたたまんない。野ブタが登校拒否して、「こうなるってわかってたのに…。」って落ち込む修二に、「避けて通れない事もあるでしょ。」って言うのもいいわ、大人だわー。かと思えば、むかつく蒼井をピコピコハンマーで「えいっ」ってやったり、横山の嘆願書に「先生好きだっちゃ 草野あき子」とか書いてるお茶目なとこもグゥですよ。

しかし山Pも亀梨君も、このドラマの深い所、ちゃんと理解してやってるのかな?いや、演技は文句なしなんですけど、なんせ忙しいからさあ、二人とも。でも公式サイトのまり子インタビュー(DAILY REPORT)では、戸田恵梨香ちゃんが「一番好きなシーンはまり子が修二に振られるシーンです。とても悲しく切ないシーンなんだけど、修二がはじめて自分の本当の気持ちを伝えてくれた場面だから。」と答えていて、おおっ!あんたわかってるじゃん!やっぱまり子は出来た女だ!恵梨香ちゃんも偉い!妻夫木君とのauのCMで見た時は、「なんじゃこの微妙なソニンは」とか思ってゴメン!と反省しましたですよ。まり子も幸せになって欲しいなあ。

結局今回のテーマは、何なんだろうねえ。別に毎回一つと決まってるわけじゃないと思うんだよね。「人を助けられるのは、人だけなのかもしれない。」っていうのももちろんだし、あと「(悪)夢から覚める」っていうのもあるのかな。「小谷さんが自殺するくらい追い込んでやる」って言っていた蒼井自身が、(夢とは言え)自殺するっていう重い話だったけれど、あのちょっとマヌケな人型とか、おいちゃんや横山やデルフィーヌのエピソードが、うまい具合に暗さを緩和してくれてました。このドラマのこういうとこが好きなんだよなあ、私。